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谷崎潤一郎『痴人の愛』あらすじ・解説・感想

『痴人の愛』は、1924(大正13)〜1925(大正14)年に発表された、谷崎潤一郎の小説です。谷崎は、この小説を「私小説」としており、ナオミのモデルは、当時の谷崎の妻の妹だそうです。

はな
はな

痴人って、何?

ほらこ
ほらこ

おろか者、ばかな人、って意味だよ

主な登場人物

ナオミ
15歳の美しい少女。カフェの女給見習いをしていた時に譲治に見染められ、後に譲治と結婚する。

河合譲治
栃木県宇都宮出身。上京して働いている、28歳の真面目で凡庸なサラリーマン。カフェの女給見習いをしていたナオミを見つけ、自分の理想の女性に育てようと、ナオミを引き取る。

あらすじ:ネタバレあり

地味で真面目はサラリーマンの譲治(28歳)は、女給見習いをしていたナオミ(15歳)を引き取って、養育を始めます。いずれは妻にとの思いから、ナオミが興味をもつ音楽と英語も習わせ、美しく賢い理想の女性に育てようとします。

成長するにつれ、ナオミの美しさは増し、そして奔放さも増していきます。異性との交友関係も派手になり、耐えきれなくなった譲治は、ナオミを家から追い出します。

しかし、ナオミの虜になっていた譲治は、帰ってきてくれとナオミに懇願します。ナオミの言うことは何でも聞く、お金も出す、ナオミのすることに干渉しないと約束し、ナオミに戻ってきてもらいます。

それから譲治は、ナオミの言いなりです。譲治がナオミに惚れてるのだから仕方がありません。譲治は36歳に、ナオミは23歳になりました。

解説

文字数と読了時間のめやす

文字数は196,419文字。1分間に読む文字数を500文字と考えると、だいたい6〜7時間で読める分量です。

著者紹介

谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう、1886(明治19)年〜1965(昭和40)年)は、明治末期から昭和中期に活躍した小説家です。

代表作に『春琴抄』『細雪』『刺青』などがあります。耽美主義、マゾヒズム、が彼の作品の特色と言われています。

私小説とは

谷崎は、この小説を「私小説」としており、ナオミのモデルは、当時の谷崎の妻の妹だそうです。

私小説(ししょうせつ、わたくししょうせつ)とは、作者自身の経験をもとに書かれた小説のことです。

発表年 1924〜1925(大正13〜大正14)年頃のできごと

『痴人の愛』が発表された1925年は、治安維持法が制定され、政府による取り締まりが厳しくなってきた頃です。そんな時代に、ナオミという一人の女性と私との閉ざされた関係に関心をむけ、それを描いた作品を発表する谷崎という人物の、我が道をいく様は、凡人には真似ができないように思います。

1917(大正6)年ロシア革命(譲治とナオミが出会う)
1924(大正13)年『痴人の愛』連載開始
1925(大正14)年普通選挙法、治安維持法制定

谷崎潤一郎記念館

兵庫県芦屋市に「芦屋市谷崎潤一郎記念館」があります。谷崎は東京の生まれですが、彼が愛した場所である芦屋に、谷崎に関する資料の保存や公開を目的に作られたそうです。

感想

服飾の描写が色鮮やか

谷崎作品全般に言えることですが、登場人物、特に女性の服装や持ち物の描写が細やかで、そして色鮮やかです。ナオミが、どんな色の、どんな素材の、どんな服を着ているか、靴下は、靴は、バッグは、日傘はどんな物かが仔細に描かれていて、その情景が浮かび上がる様です。

谷崎自身が、服飾に強い関心を持っていたからこその描写だと思いますが、当時の流行や風俗が伺い知れて、とても楽しくなります。

譲治の試みは失敗か?

ナオミを自分の理想の女性に仕立てたかった譲治ですが、結局は、ナオミの魅力に翻弄され、譲治がナオミに支配されるような関係性になってしまいます。では、譲治の試みは失敗だったのでしょうか?

「自分好みの女に仕立てたかった」「ナオミを支配したかった」という意味では、譲治の試みは失敗でしょう。

譲治のナオミに対する態度は、譲治がナオミを引き取った時点から一貫していたように思います。譲治は、15歳のナオミに対し「お金も帰る家もないナオミは僕の所に戻ってくるしかない」「僕が養ってやっている以上、僕の望み通りの存在でいるしかない」と思っています。つまり「強い方が弱い方を支配して良い」というメッセージを与え続けたのです。

そうであるなら、成長し女性としての魅力を備えたナオミが譲治に対してとる態度は、以前の譲治のそれと同じになるのは道理でしょう。「魅力のある方が、それを欲しがっている方を支配して良い」と、ナオミにそう教えたのは譲治自身なのだから。

ナオミは譲治が望んだ理想の女にはならなかったかもしれないが、譲治が教えたことを忠実に再現する女になったのです。であれば、ある意味、譲治が教育した通りの女になったと言えるように思うのです。

はな
はな

なんだか皮肉な話だね

ほらこ
ほらこ

そうだね。だけど、ナオミが自由奔放でよかったって、思うんだよね。「譲治の希望が叶いました」ってだけじゃないところに、このお話の救いを感じるんだ

谷崎潤一郎(1886-1965)の『痴人の愛』は、著作権保護期間が満了した日本国内ではパブリックドメインの作品です。青空文庫アマゾンKindleから無料で読むことができます。楽天ブックスでもパブリックドメインの作品を読むことができますが、2021年6月現在『痴人の愛』は未対応の様です。

アイキャッチ画像 Photo by Christopher Beloch on Unsplash